夕日が、静かに落ちて……
ざわめきは、もう……いらだちや、怒号に……変わってたの。
電車の復旧の見通しは、全く……たってなかった。
それどころか……その運休は、明日までつづいてしまう……
……その恐れも、ある、と……
……あには、心配そうに……改札の方と、あたしを……見ていた。
「……ここにいても……どうしようもないな。……なあ、逢?」
……急に呼ばれて、どきん、と……して。
なぁに?って……返事をしたら。
「とりあえず、食事だけでもしに行かないか?」
……!?……うふふ、うん、そうだね……
思わず……あにの、あまりにも気楽な申し出に……
あたしは、つい笑ってしまったの。
……
あたしたちの、のんびりさとは……うらはらに。
……雪は、どんどん……その勢いを、増していた。
美味しいお店の、おしゃれなメニュー。
窓の外に広がる……雪の、夜。
はずむはずの会話だったけれど……
…………あたしはずっと……気もそぞろだった。
帰れなくなっちゃった……から、では……
…………なかったの。
心のどこかで、帰れなくなればいいと思ってた。
それを、あたし自身が……わかってた。
美味しかったね、とつぶやく……あに。
うん、って……うなずいて、でも……味は覚えてなかった。
駅へと続く道。雪が、いつのまにか赤いレンガを白く染めている。
かじかむ手を、どうしてか……あっためちゃ、いけない気がした。
……あたしにも、よく……わからない。
そんな、違和感を……その理由もわからないまま、もてあましてる。
あにのすこし後ろ。とことこと、ついていく雪のレンガ道。
駅のさわがしさは……もう、雪にかき消えるほどになっていた。
街路樹の枝に、雪が鈴なりになって。
それが、まるで道案内の風鈴みたいに見えて。
それくらい……あたしの心は、……かじかむ手とはうらはらに……
……どきどきと、温かかった。
夏のような、締め付ける暑さに似た……そんな、不思議な心境。
電車は、もう動く様子を見せていなかった。
数駅歩けば……そこには地下鉄が通っていて……
それで、遠回りすれば……帰れると、分かってたけど……
でも、あたしは……その事も、切り出せなかった……
…………ううん、切り出さなかったの。
深夜でも、あいているお店に行こう……
あにがそう言った時、あたしは……だから、あっさり「うん」って……言った。
一晩、いっしょに……いられるかもしれない。
そう、考えるだけで……もう、他に……何もいらなかった。
あにと……一緒のお店。
普段、見て回らない時間の……よく知らない素顔。
外よりも……明るくなった店内。
遅い時間に遊ぶ、ゲーム……
なんでもない、カードを筺体から……抜き取るだけの……しぐさでも。
……わからないけど、どきどき、した。
だから……あたし、分かってなかった……
どきどきしてたあたしの……心は。
…………あにの手を握った瞬間……さぁって、冷え切っていった。
あたしより、ずっと、熱い。
…………!あに……もしかして……熱……
あには「大丈夫だよ、逢は寒くない?」なんて……でも。
……そう言ってくれるあにの横顔が、……
……どうして、いまさら……気が付くんだろう。
こんなに……辛そうだったのに……
あに。
あたし、本当は……ただ、一緒にいたかっただけじゃ、なかったの。
二つとなりの駅まで、タクシーをひろって。
……そこからなら、帰れるんだよ、って……あにに、言って。
……あには、「ごめん、駅までだけ寝てていい?」って、言うから……
……あたし、そっと……あにの横顔を、肩に……乗せて。
静かな寝息を立てる、あに。
この雪で大変だったでしょう、お嬢ちゃん、という……運転手さんの問いに、……あたしは、首をたてか、横か……どっちかに降っただけ……
……あたしの、せいなんです、としか……答えられなかった。
あに、苦しい?
……でも、静かな寝息が……乱れることは、なかった。
こんな、こんな大変なときなのに……
それでも、あたしは……
この、タクシーの中のひとときが……ずっと続けば、って、思わずに……いられなかった。
あにの横顔を抱きしめて。
その手をずっと、握り締めたくて。
意識しないうちに、駅はもう目の前で。
タクシーの運転手さんに、お金を渡す頃には……
もう、あには……目を覚まして、にっこり……微笑んでた。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
きっと、謝っても……あには、許してくれる、そんな気が……した。
あたしのせいじゃない、って……そう、言ってくれる気がした。
あにを、独り占めしたかった。
あたしの都合だけで、……どうしたいかもわからないのに、あにと……一晩、一緒にいたいって思ったの。
その意思があっても、なくても。
……つらい思うをさせて……気が付かなかった。
………………あたしなんか……
そしたら。
泣いちゃだめだよ、って……
…………それではじめて、あたし……泣いてるのに、気が付いたの……
あにの手は、……となりのあたしを、やさしく……なでてくれた。
……そしたら、全部……あたし、話すことができた。
雪が降れば、電車が止まるから……もしかしたら、ずっといっしょにいられるって……そう、思ったこと。
帰れなくなったとき、本当は……地下鉄のことを知ってたこと。
……あにの、具合の悪くなってたことに……気づけなかったこと。
…………そして、今も……ほんとは、いっしょに……いたいこと。
わがままで、つらい思いをさせたはずのあたしに……
……あには、怒ったりせず……責めもしなかったの……
俺も、一緒にいたいから出てきたんだよ、って。
……そして、それ以上何も言わず……たった一言、「ごめんね、熱なんか出しちゃって」って……
…………電車が、家の近くの駅に……着いたのは、ほどなくして。
あたしは、ずっと……あにの手を握ってた。
この先、あたしの思い通りにいかないことは……きっと、ある。
我慢できる時と、……できないときも……あるだろう。
でも。
ちゃんと……忘れずに、考えなきゃ……いけないよね。
……あに、が……好きなのか。
……あに、を……好きなあたしを、好きなのか。
それとも……両方とも、大切なのか。
熱を出してることもあって、あには……一日、こっちでお休みすることに……なった。
……あにも、一日なら……いい、って、そう言ってくれた。
もともと……あにのお部屋は、あたしのお部屋の……お隣だったの。
でも……あにが、出て行って以来……ずっと、空いていたお部屋。
……そっと入っていったら……あには、もう……寝てた。
でも、具合は……もう、そんなに悪そうじゃなくて。
……頭に乗せたタオルをしぼって、もういちど。
……あに。
あに、ありがとう。
あにはもしかしたら、気が付いてたのかも……しれないね。
……あたしが、……いくつも、嘘をついて……
あにと、一緒にいようと……してしまったこと。
でも、寝息をたてるあにの……寝顔は、とっても……穏やかで。
……月に照らされて、とても……きれい、だった。
人は、見た目によらない。
そういう人が、いるよね。
……あたしは、普段……そうは、思わないけど……
……こういう瞬間は、その言葉の意味が……分かる気が、するの。
……あたしは、あにの妹として……ここに、いる。
あには、あたしの……大切なあにとして、……いる。
でも。
……あたしは……本当は、あにが……単に大切なあに、で……
……それだけで、言い表せないことを……知ってるの。
…………どうすれば、いいのかな……
そう思って……答えを探すのを、いったん……やめた。
出るべきときに、そのときどきに……ふさわしい答えが、きっと……あると思ったから。
だから。
今は、この……横顔を見れるだけで……
その横顔が、安らかで、とてもきれいで……
それだけでも、うれしいから。
見た目や、現状に……頼らなくても、うれしさは……あたしを、裏切らない。
……今、ゆくえしれずの思い。
心の中で、もしかしたら……抱え続けるのは、つらいかもしれないけど。
ゆくえの分かってるものにはない、そんな……あたたかさが、隠れてる。
……だいすき、の行き先は、いつだって……
ひとつじゃ、ないんだもんね……
もういちど……タオルをしぼって、頭にのせて……
そこで、……ぐぅ……
………………あたしも…………つかれ…………
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……一晩中、雪は降り、風は吹きました。
……道を包んで、街を氷の幕で覆って。
……おだやかな爪あとを、いっぱい、いっぱい……
数え切れないくらい、残した……一夜。
…………ぐぅ……
…………あ…………あたま、いたいよぉ……ぐぅ……
あにの氷枕を代えて、タオルを代えて……
その途中、疲れて……あにのベッドにもたれて寝ちゃって……
……その夜。あにが帰ってから……
…………ぐ、ぐぐぅ……熱が……
『あっはは、逢ちゃんたら、あにに風邪移されちゃって……ほんと、仲いいんだからー、おばさんだって妬けちゃうわよ。』
うう……い、今は……お返事できる余裕がないよぉ……
……お?……あにの、風邪…………え、えへへ……ど、どうしよぅ……
お、おばさん……つらいけど……て、照れくさいよぉ……えへへ……
内心、他のひとにうつすくらいなら……
風邪のウイルスでさえも、独占したい自分……
……あ……あたしって……もしかして、めろめろ……ですか?
【ゆくえ、しれずの】完
……え?……って感じの終わり方ですなw
というか、逢のストーリーで、ラストにボケが来ないのって、ほとんどないじゃないですかw
結局、逢の目的は果たされませんでした。
一晩、何をするでもなく、でもとにかく一緒にいたい……
そんなことを、思ってしまう時があります。
とにかく一緒にいたいとき、その理由なんて、多分どうでもいいんです。
多分、こまごまとした事をほじくるのをやめて。
無条件に相手を大切にする、その程度の気の抜けようがあれば。
ぴしっとした幸せはないかもしれないけど、ほのぼのした幸せは来ます。
でも、人が幸せになる生き物だってこと。
そして、時に幸せばかりを選べるほど楽になれない生き物だってこと。
それだけは、分かっておきたいんですよ。
☆戻ります……☆