急な、雨……

ずっと明るかった、空が……いつのまにか、ねずみ色。
ちょっとだけ、なまぬるい風……

それから。



……いきなり、大きな音をたてて……
いじめっ子の、追いかけてくる声、みたいに……



……ぐぅ。
扉を閉めて、ぐっしょり濡れちゃった買い物の袋を置いて。
そこに、小さな水溜りができるくらい。
……体中、雨で……うぅ、服が、体に……まとわりつくよぉ……
腕にはりつくブラウスを脱いで、バスタオルのあるお風呂に……
……そうだ、ついでに汗も流しちゃおう……
……あ、髪型が……ぺたん、ってなっちゃってる……
ふぇぇ、いきなりだったもんね……
濡れたブラウスはかごに入れずに……これだけは、別に洗わなくちゃ。
汗なんだか、雨なんだか……分かんなくなっちゃったなぁ。


きゅ…………




!!!




お湯モードにするの……わ、忘れて……ぐ、ぐぅ。





ぽと……


ちゃぽ……


…………ふぅ。


指先についたシャボンを、ふぅ、って飛ばして。
窓ガラスについた露を、その指先ですくい取って。
軽く、汗ばむくらいの、熱気を……窓を少しだけ開けて、外に逃がして。

……ほたる、だいじょうぶかなぁ……





この季節、あたしの楽しみのひとつ……
それが、ほたるを見に行くこと……


電気でも、魔法でもない、自然のあかり……

それを、……あにと、ふたりで見に……行くの。



もう、あたしの住んでるところには……自然のほたるなんていなくて。
お店で買うのが普通なんだけど……

でもね。


夜空に、しずかに舞う、光のつぶ……
うふふ、たまに、ね……
光が、ハートマークを描いて、飛ぶの……

……その明かりが、普段の生活の中じゃ……見られなくなって。
もちろん……いろんなものが便利になって。
おでかけの時……遊びに行く場所だって増えたよね。
そうなっていく事が、きらいなわけじゃ……ないんだよ。



ちゃぽ…………

人差し指からこぼれた雫が、胸元で波紋になって。

……あに、あのころは……
まだ、ほたるは……とっても、大きく見えたんだよね。

背も小さい、洋服だって小さくて。
そのくせ……たまに出す声だけは、とびっきり大きかった……
まるで、音の波がやさしい水みたいで、あたしを包んでくれてて。
ぶっきらぼうに、でも、……ううん、いつだって、あたしを包んでた。





ほたるは、雨が降ると……

幼虫の時は、雨がないといい成虫になれないほたる。
でも、成虫になると、雨に弱いほたるは……溺れて、しまうから……


今年、見にいけるかどうかなんて……分からないけど。

その、予定だってないけど……
でも。





体が、なんだか……ふやけちゃったみたい。うふふ……
でも、気持ちよかったな……


雨は、止む気配どころか、むしろ……


バスタオルをまいて。
…………

…………ぐぅ、なんか、大人なんだか子供なんだか……わかんない……

あたし、いつになったら……
……あにが、照れちゃうくらいの……大人の女の子に、なれるのかな……

うふふ、そしたら、あたしも……一緒に、照れちゃうんだよ。
はずかしそうに、時々目を合わせたり……

……したい、んだよ?



……時々、分からなくなる。
あたしは……あににとって、どんな……自分で……いたいんだろう、って。

恋や愛とは、ちがう「なにか」……
独り占めしたい気持ちと、……独り占めにされて、閉じ込めてほしい気持ち。




…………あに、わかんないけど、今は……やっぱり、そばに、いたいよ。



着替えを持って、自分の部屋に向かう。
……ほたる……ほたる、大丈夫?
なんとなく気がせいて、つけたテレビが……教えてくれるはずもなく。


ほたるの光は、普通の方法じゃ、残せないんだって。
……写真に残すには、ずーっと……シャッターを開けたままにしないと、いけないんだよね……
……

ゆっくり、闇の中で……ほたるの光を待って。
一時のフラッシュじゃ、やさしい光はとれない。


慌てることと、機を見るのは、……違うもんね。




確かに……あには、まるでフラッシュみたいにかっこいい時、多いけど。
……あたしが……

あたし、あにの「ほたるの光」が、……好きなんだよね。
真っ暗になったとき。周り中が闇だって思えたとき。
まっくらな中、あたしは……それでも、一人きりじゃないって……



だって、あには……

まるで灯火みたいに、やさしく、まぶしく、光っているから。









決めた。


こんどは……

こんどは、あたしから……あにを、誘おう。
……あたし、いつも……自分がこうなりたいとか、そんなの……ばっかりだった。
あれこれ、考えるのは……きっと、大切なんだとは思うけど。



……あに。
あたし、きっと……あにのことが、わかんないんだよね。
雨や、季節や……いろいろな理由で、ほたるは弱っていく。
だけど、いつなら……どんなときなら、ほたるはきれいなのか。
……




……ねぇ、あに……

あには…………あには、すごく……きれい、だね。

会えないとき。
あたしの事を、考えてくれてるとき。
あたしの知らない何かを、思っているとき。
そんなに深く考えたりしてないとき。
……うふふ、お風呂に入ってるとき。


あたしにとって……
……あには、やっぱり、きれい。
かっこいい、とか、そういうことよりも……




そっか……
なんだか、雨が……あたしに、ちょっとだけ……考えさせてくれた。



ねぇ。

どんなに、忙しくっても、

来年は……いっしょに、ほたる、見に行きたいの。





手に取った受話器。


……ぐ、ぐぅ、一度だけ……ちょっと、置かせて……




心臓が、……倒れちゃいそうなくらい……どきどき、する……






……えへへ……

大人っぽくなるの、もうちょっと、かかるかなぁ……



来年のこの季節に。
……ほたるを前に、二人でいるときには……

……苦しいどきどきと一緒に、……別などきどきが、……







あれば。

……ゆめ、みたいだよ、……あに。







あと3つ、ダイヤルを押せば……





                   【ゆめみるほたる】完


今回は、「蛍」で7月……えへへ、絶対時期はずれ。
でも、俺は「時期はずれ」をこんな風に書くのが割りと好きなんですよw
ついでに、これで来年まではこのネタを温めることになりましたねw

ホタルについては、まだうろ覚えですので、もしも変なところとかありましたら、教えてください(汗)



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