…………
ぐ、ぐぅ、どうすればいいんだろ……
突然、寒くなったり。
そうかと思えば、いきなり雨……
ぐぅ、きまぐれさんは、猫さんだけでいいよぉ……
つまり、傘が……なかったんです。
それで、しかたなしに……知ってるお店に駆け込んで。
次の、あにとのお出かけ……
どうしても、買いたいケープがあったの。
あにを驚かせたくて……えへへ、あたしは一人でお店に行って。
帰りの交通費、すれすれだけど……思い切って、買っちゃった。
裾のフリルもいいんだけど……
胸元に、白いクロスのししゅうが付いてて、きれいなの……
一ヶ月前、……お出かけしたとき、本当は……チェックしてたけど。
その時は……とても、自分のお金じゃ買えなかった。
……買ってあげようか、って言ってくれた時……
嬉しかったけど、……あたしは、断ったんだよね。
えへへ……すごい、しあわせ……
好きなものを買えた時って、どうして……こんなに、ふわふわするんだろうね?
……なんて、うきうきしながら歩いてたら……
……ぽつ、ぽつ……すら、飛ばして……
いきなり、ざざー……
……!ぐ、ぐぅ、せっかく買ったのに、ケープが濡れちゃう!
ちょうどすぐそばに、……いつもならテイクアウトでコーヒーを買ってるお店。
……今日は、お店の中で……ひとやすみかな……
もちろん……考えながら、あたしの足は……自然と、お店の中に。
雨がちょっとだけしのげれば、それだけでも……
だから、いつものアイスカフェオレを……って……
ぐ、ぐぅ、そしたら、あたしが座ったテーブルに……
「……ママ?」
!!!!!
ま、まだ、あたしはそんなこと、してないよ、ぐぅ……
「……お母さん、おそいね……」
「うん……」
……2杯目は、暑い時にはこれ……な、フラペチーノ……
その子には、豆乳たっぷりのカフェオレ……
…………もちろん、この子がお金なんて、持ってるはずもなく。
……ぐぅ、あたし、帰りの電車賃使ってまで、何やってるんだろう……
あとで、この子のお母さんがいらしたら……
……ぐ、ぐぅ、はずかしいんだけど、お金、払ってもらわなきゃ……
「……オレンジジュースじゃなくても、いいの?」
そう聞いたあたしに、その子は……
「うん!いつも、ママといっしょにのんでるのがいい。」
わりと元気に、そう答えたの。
お母さんはまだ、お若い方で……
どうも、あたしが今さっきいたのと同じお店に、忘れ物をしちゃったみたい。
でも……気が付いた時には、雨が降ってきちゃってて……
それで、この子をひとりこのお店に残して、雨の中走っていった……
しばらくはおとなしく待ってられたけど、不安になって……
そこに、似たような格好(なんだよね……多分)の、あたしが来た……
雨は、まだ弱くならない。
むしろ、風が強くなってる分……心なしか、強まってるような……
「ねぇ、おねえちゃんは……いまのおようふく、すきなの?」
…………え、え?あたし?
ぼーっとしてたから……びっくりしちゃった……
「……うん。実はね……これも、さっき買ったばっかりのお洋服なんだよ。」
えへへ……さっきのしあわせが、またちょっと、こみ上げてきたな……
そしたら。
「……あたし、そういう……ママがきてるみたいなの……きらい。」
……その子は、割とはっきり……そう、言った。
……!…………
ショック、だった……
いきなり、自分の好きなものを「キライ」って言われたら……
それが子供だって、辛いもんね……
「もっと、おとなしい方が……好きなのかな?」
「ううん……でも、そういうふくは……きらいなの。」
そっか……
「だってね、いつも……ママは、おようふくをみると……あたしのことをね、わすれちゃうんだもん。」
え…………?
「ママ、あたしよりも、おようふくのほうが、すきだから。」
さっきとは全然、別なところで……
ショック……ううん、ぞっと……した。
その子の表情は、なにひとつさっきと変わりなくて。
ううん、むしろ、ママの事を話してるから、なんだろうけど……
……笑顔、だった。
カップを持つ手が、すこしだけ、震えた。
この子が今、どんな気持ちでいるのか……あたしには、わからない。
でも、……あたしでも、それは、きっと……さびしい。
……もし、あにが……あたしそっちのけで、お店に入っちゃって。
それで、ずっと待ちぼうけ……そう思っただけでも、辛かった。
この子は、それが辛い、ってことさえも、表に出せないんだ。
……ううん、出すことを……忘れちゃったのかも……しれない。
多分、ママは……そんなに、際立って悪い人じゃ……ないんだろう。
でも、子供には……親は、とっても、とっても大きいから……
意識さえできないような事でも、子供の心には、残ってしまうんだ。
……!……
いつも……いつも、あには、わざと……
「……すぐ、来てくれるよ。雨が強くなっちゃったから、時間はかかっちゃうかもだけど……」
さみしい素振りも見せない……その子に、あたしは言った。
「……それまでは、あたしと一緒に、ママ……待ってようね。」
……あにだって、好きなお店はあるし、真っ先に行きたい場所はあったはず。
……でも、あたしは……どんなときも、あにと一緒にいた。
……あにがいなくなる、勝手にどこかに行ってしまう……そんなこと、考えることさえなかった。
その時、あにがいなかったら。
……そういう時に、もしも、一人だったら。
あたしは……この子みたく、なっていたんだと思う……
気が付いたら、雨はすっかりやんでた。
……通り雨、だったんだね……日差しが、かすかに感じられた。
その時。
「……あ、ママだ。」
え……
すごく、自然な……溶け込んじゃいそうな、つぶやき。
その子の目線の先に……
……す……すごく、かわいらしい、おねえさんみたいな……
……え、え、え?……これが、おかあ……さん?
「ごめんね、あい!ずいぶん待たせちゃったよね……」
?!?!?
「ううん、ずっと、このおねえさんがいっしょにいてくれたから、だいじょぶだったよ!」
……それで、はじめて。
この子が……「あい」って名前なんだって分かって……ぐぅ、びっくり、したよ。
「あら、かわいい〜☆このお姉さんが?」
なんて言いながら、お母さん(には見えないけど)が……
「うん!」
ぐ、ぐぅ、かわいい、っていうのは……間違い、だよね……
「ありがとうございます、この子、ご迷惑かけなかったかしら?」
「え……いいえ。いい子に……してましたよ、とっても。」
いい子……
ちくり。
ちょっと心の中に、痛みが……走った。
「よかったね。お母さん、来てくれて。……じゃあ、あたしはこれで……」
またね、そう付け加えて。
どうしてかは分からないけど、そのお母さんと……
……話したくなかった。
……今のあたしの思いとか、考えとか……
そういうのを……押し付けるつもりもないけど……
それに、あたしに……大人に対して何かを言える資格もないけど……
同じ、こういう服を着てる……しかも、あんなにかわいい人が……
……無邪気に、誰かに絶望的なさびしさを与えてるんだ……
呼ばれてる気はしたけど、あたしは……
その子に手を振って、そのまま駅への道を急いだ。
気が付かせないうちに、与える傷もあるけど。
……あたしは、おとうさんや、おかあさん……それに……
……誰よりも、あにから……
安らぎや、やさしさや、思いやりをもらい続けてたんだ。
それは、あにもあたしも小さい時から……
手を伸ばせば届くところに、ずっといてくれた。
たったそれだけのこと……なのかも、しれないけど。
……あたしが駄目にならなかった、一番のわけは……
さみしくても笑うこと。
かなしくても平気でいられるようにすること。
あたしに、できるだけそういう時間を与えようとしなかった……
だから……いつも、一緒に……いてくれるんだね?
いつか、あたしがお母さんになって。
……ううん、もっと、ちゃんと大人になって。
そのとき……あにが教えてくれたことを、あたしは生かせるだろうか。
あにが、どんなときもそばにいてくれたこと……
そばにいることを、どんな事よりも大切にしてくれていた事……
特別な何かよりも、まず……そばに、すぐそばにいてくれた事。
そして。
その事に……今、実感できたこと……
服を新しく買った時のしあわせとは、比べ物にならない幸せ。
大きすぎて、わからなくなってしまうことも、あるのかもしれないけど。
でもね、あに……
切符売り場に向かう。
財布を取り出して、切符を買…………
……買…………
……………………
…………………………………………
……ことん……がちゃん……
…………とぅるるるるるる、とぅるるるるるる……
あ
「ぐ、ぐぅ…………あ、あに……たすけて……」
あのね……
か…………帰れないの…………お金、その、あの、えと……
も、もしかして……
…………やっぱり、あたしって……と、とろい……ですか?
……く、くやしまぎれに……
あにが、改札から出てきてくれたら……ぐ、ぐぅ、ぎゅーって……
だ、抱きしめ…………
そ、そそそ、そんなこと、したらあたし爆発しちゃうよぉ……
あ、駄目、……顔が熱くて……ふらふら、してきた……
……雨の、ばか……えへへ……
【あまつゆのいと】完
8月SS,アップしていないという(汗)
遅くなりましたー。こんなんですw
最初は、すこしずつ強くなりたいという思い。
それが、だんだんと「ありがたみ」へと変わっていく。
そのことに、なかなか気づける人はいませんよねw
人は、少しずつ変わっていく生き物ですから。
しかし、なげーな……(汗)
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